映画「メタモルフォーゼの縁側」を鑑賞して

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どんな映画も一度観られたら満足で、"好きな人が出ている"という(自分にとっての)プラスがあったとしても、2回までしか観たことがなかった。そんなわたしが、心から何度も観たいと思い、実際にこれを書いている時点で5回観に行った映画、「メタモルフォーゼの縁側」。

 

 

それは映画やドラマでよくあるキラキラとしたサクセスストーリーというよりは、わたしみたく一般人の日常に近いような、そんな距離感の物語だった。映画に対しては "非日常" を求め楽しんできたこれまでのわたしにとって、メタモルフォーゼの縁側のような映画はとても新鮮だった。どちらかと言えば非日常よりは日常に近しいストーリーであるこの映画に、なぜこんなにも心惹かれたのか。

それは作中のあるシーンでの雪さんのセリフ「優しいの。漫画の人たちみんなどこまでも優しくて元気が出るの」と同じで、この映画に出てくる人たちみんなどこまでも優しくて元気が出るから、まるで今の自分を肯定してもらったような、あったかい気持ちになったから。

 

 

 

 

 

"好き"には単に好きという一言で完結するものもあれば、一言では表せないほど深い好きもある。そして深くなればなるほどその好きの対象は、言わば 自己を形成するひとつ のようなものになっている感覚がある。

自分の考え方や価値観といった内面の、パーソナルな部分を反映しているような大きい存在になっているからこそ、その好きを表に出すことは決して簡単ではない。誰かに打ち明けたとして、仮に引かれてしまったり受け止めてもらえなかったりしたら、自己を否定されたような気持ちになる可能性だってある。だから、誰かに言いたい気持ちがあったとしてもなかなか言い出せない。

主人公であるうららちゃんにはきっとこういう想いがあったのだろうと思う。だから自分と同じBLという対象に一言で完結する好きを持った英莉ちゃんが、何の躊躇いもなく周りに好きと発信している姿を見て「ずるい」と感じたのだと思う。

 

 

同世代の友人と楽しそうに会話をするような場面は一度もなく、話すとすれば幼馴染のつむっちくらいであるように窺えるうららちゃん。そんなうららちゃんが自ら少しずつ"BL漫画"という自分の"好き"を見せ、それらひとつひとつを真正面からどんと受け止めてくれた雪さん。雪さんとの出会いはうららちゃんにとって、とても大きくて嬉しい出来事だったと思う。

うららちゃんが雪さんにオススメのBL漫画を紹介する中で「中にはちょっとそういう過激というか、そういう感じのところもあって・・・」と後ろめたそうに話したときに、雪さんが「了解」とグーサインで受け止めてくれていたシーンが特に印象的。

深い好きは自分の内側に近いものだからこそ簡単には打ち明けられないけれど、だからこそ打ち明けた先で相手にそれを受け止めてもらえると、まるで自身を肯定してもらったような気持ちになる。あのときのうららちゃんはホッとしたのと同時に、きっと嬉しかったと思う。

 

 

 

雪さんのシーンは頬が緩むばかりだった。買ってきた漫画や月刊誌のビニールをワクワクしながらビリビリと剥いでいるシーンは特に好きだった。他にも漫画の中のキャラクターに向かって「がんばれー!負けるなー!幸せになれー!」って拳を振り上げ興奮しながら応援したり、推しとお揃いのシャツを着てパスポート用の証明写真を撮り、「一緒に旅をするの」といった乙女な一面があったり。

いくつになってもいろいろと発見があること、"好き"は自分にとって大きな活力になることを、雪さんは教えてくれた。そんな雪さんの姿が希望のように感じて、雪さんのみたいなおばあちゃんになりたいと思った。

 

 

BL漫画という趣味を軸に生きているうららちゃん、留学という大きな目標を持ち真っ直ぐ努力している英莉ちゃん、熱くなれるものにはまだ出会えていないけれど、どんな時も周りの人のことを何よりも大切にしている紡くん。

どの生き方、在り方も丁寧に扱われていて、尊重されていた。

そんなやさしい世界に観入っていると、今のわたし自身の生き方、在り方も肯定して貰えたような気持ちになった。

うららちゃんが雪さんに真正面から受け止めてもらっていたように、わたしはこの映画に自分を受け止めてもらった。

そして、大事なものを大事にし続ける先に見える世界は限りなく明るいのだ、ということをうららちゃんと雪さんが教えてくれた。

 

わたしも今と変わらず、いつまでも自分の"好き"を大切にしよう、大切にできる自分でありたいと、この映画を鑑賞し、改めて強く思いました。

 

 

 

 

 

最後になりましたが、

恭平くんへ

こんな素敵な作品に出会わせてくれて

本当にありがとうございました。